腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

約束

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

鷹峯さんがお風呂から出た私にココアを淹れてくれる。

梅雨入りして随分とジメジメしている今日この頃。蒸し暑い日も多くて、最近のお風呂上がりはもっぱらアイスココアに限る。

あの日からも変わらず鷹峯さんはお風呂を手伝ってくれてるけど、特に手は出されていない。

「ぷはぁ〜。さいこ〜」

私はこの、鷹峯さんが淹れてくれたココアが大好き。

いつもは飄々としていて、どこか掴みどころのない鷹峯さん。ブラックコーヒーとアルコールしか飲まない人なのに、私のために牛乳も買い置きしてくれていて、わざわざ作ってくれるココア。

鷹峯さんには「甘党ですねぇ」なんて飽きれられているけど、これを飲むとほっと気持ちが緩む。

「手首の方、だいぶ良さそうですね。問題なく動かせますか?」

お風呂上がりにいつも鷹峯さんが包帯を替えて、手首を診察してくれる。

ゆっくりと動かされても、もう痛みはなかった。

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

「いえ、元はと言えば私のせいなので。良かったです」

鷹峯さんは診察の後に石鹸でしっかり手を洗い、そのまま流れるような手つきでテーブルを除菌シートで拭く。

もう見慣れたから良いんだけど、本当にこの人潔癖だわ。
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