幼馴染 × 社長 × スパダリ
その日のお昼少し前、涼ちゃんは外出先から戻って来た。
もちろん小柳さんも一緒だ。
美香から話を聞いたからかも知れないが、改めて二人を見ると、美男美女でとてもお似合いだ。
すると、涼ちゃんは、私に声を掛けた。
「萌絵、悪いけど社長室まですぐに来てくれないか。」
「…はい。」
社長室に入ると、そこには涼ちゃんと小柳さんがソファーで向かい合うように座っている。
何か分からないが、空気が重い…。
涼ちゃんは、私を自分の隣の席に座るよう指示をする。
少し時間をおいて、涼ちゃんがゆっくりと話し出した。
「小柳君、僕は君を最高のパートナーだと思っている。」
(…やはり涼ちゃんは小柳さんが好きだったんだ…)
小柳さんは口角が上がり、少し笑みを浮かべている。
「社長、ありがとうございます…」
(…なぜ涼ちゃんはこんなことを、私の前で言うのだろう…酷すぎる…心臓がドクドクと大きな音をたてた…)
私はすぐにでもこの場を離れたかった。
しかし、涼ちゃんは淡々と話を続けた。
「小柳君、ただし最高のパートナーなのは…申し訳ないが、仕事上の話だ。」
「-------っえ?」
小柳さんは驚いた表情で涼ちゃんを真っすぐ見ている。
「小柳君に、ずっと誤解をさせていたのは僕の責任だ。この場で謝りたい。申し訳なかった。」
小柳さんは少し震える声で話し出した。
「…誤解とは…社長…私は何を誤解していたのでしょうか…」
涼ちゃんは一度目を閉じた。そして、ゆっくり目を開けて辛そうな表情をしている。
「小柳君、君が僕のことを想ってくれていることは、知っていたんだ。でも、その気持ちには応えられない。それをもっと早く言うべきだった。申し訳ない…」
小柳さんは、表情が急に強張った。
顔色から、少しずつ血が引いていくように感じる。
その瞳には涙が溜まり始めている。
「社長、私は貴方を愛しています。いつか気持ちに応えてくれると、信じていました。それなのに…萌絵さんと結婚なんて、信じられません。偶然に再会した幼馴染みでしょ…」
(…とてもこの場に居ずらい…なんで私を呼んだの…)
涼ちゃんは、私の肩に手を置いた。
「僕はね…偶然に再会した幼馴染と、いきなり結婚したと思われているけれど、違うんだよ…」
「…っえ?」
「…っは?」
私と小柳さんは同時に声を出していた。
「萌絵のことは、ずいぶん前から探していてね…そして、偶然一年位前に、あるバーで見つけたんだ。でも萌絵には恋人がいて、諦めるしかないと思っていたんだよ。」
私は驚いて涼ちゃんに振り返った。
探していたなんて、信じられない。
驚いて言葉が出ないくらいだ。
「---------------」
「その話には、まだ続きがあってね…ある日そのバーに来た萌絵は、会社も彼も失うと、マスターに嘆いていたんだ。僕はそんな弱みに付け込んで、卑怯な事をした。萌絵は僕の正体に気づいて無いから、この会社に来るようにメモを渡したんだ…来てくれることを祈ってね…」
私はその話を聞いて、“be happy”での出来事を思い出してみた。
だから、こんなにもタイミング良く就職が出来たし、涼ちゃんと再会できたのだと納得した。
小柳さんは、涼ちゃんの顔をジッと見つめている。
「社長、どうして萌絵さんを、そんなに探していたのですか…何度お言いますが、ただの幼馴染なんでしょ…」
涼ちゃんは、フッと小さく微笑んだ。
「僕はね、萌絵と離れてから、いろんな女性と付き合った。自暴自棄にもなっていたのかも知れない。どんなに美しい女性と一緒にいても、気持ちが満たされなくてね…。気づくと、萌絵の笑顔が頭から離れなかったんだ…自分でも呆れるほどだな…」
私は涼ちゃんの言葉に驚いた。
まさか、涼ちゃんがそんなことを思ってくれていたなんて、雷に打たれたような衝撃だ。
心臓がドクドクと煩く鳴り始める。
小柳さんは、俯いて涙を堪えているように見える。
細い肩が小さく震えているようだった。
ズキッと心臓が痛くなる。
涼ちゃんは、小柳さんに優しく微笑んだ。
「小柳君、君にはこれからも、最高の仕事のパートナーでいて貰いたいんだ。ダメかな…」
小柳さんはゆっくりと横に顔を振りながら応えた。
「社長、そんなお願いが、聞けるわけがないじゃないですか…。でも私はバカですね…貴方を放っておけない自分が居るんです…」
「小柳君、ずるい俺を許してくれ…」
少し時間をおき、小柳さんは涼ちゃんと私を交互に見ながら口を開いた。
泣き顔は、いつしか、いつもの凛とした美しい表情になっている。
「二階堂社長、萌絵さん、これからは覚悟してくださいね。私は秘書として、ビシビシ仕事には厳しくさせて頂きますから…」
私は姿勢を正して返事をする。
「…はっ…はい。」
すると小柳さんは、笑顔を見せてくれた。
「萌絵さん、あなたは二階堂社長と、幸せになってくれないと許しませんよ…」
その様子を見て、涼ちゃんはホッとしたように微笑んだ。
小柳さんは、美しくて本当に素敵な女性だった。
『イイ女』とは彼女のような女性なのだと思う。