こころ
「もう·····、会わないって言ったよね」

「密葉」

「電話もしてこないでって、言ったよね」

「··········」

「も、私に関わんないで·····、お願い·····」

「·····意味分かんねぇ」

「それだけだから、もう来ないで。ほんとに迷惑なの」

「密葉っ」

「さようなら」



できるだけ冷めた声で言った。
和臣を通り過ぎ、早くこの場を離れようとして。



「待てよっ、なんで·····。俺なんかしたか?」

強引で、ストーカーなのが和臣·····。
私の手首を掴み、私の歩くことを阻止する。


「別に·····」

「別にって何だよ、言ってくれよ」


和臣は何もしてないから。
言うことなんてない。ただそれだけの事。


和臣に引き寄せられてるせいで、ポツポツと傘に当たっていない部分が濡れていく。


「離して」

「言うまで離さねぇ」

「やめてよっ」

「なんでだよ?」

「もう和臣と関わらないって決めたの!」

「だから何でだよ、理由言えよ」

「やめてっ」

「族だから?」

「和臣!」

「関わらないって意味分かんねぇよ、·····言ってくれよ」

「やめて」

「電話鬱陶しかった?」

「やめてって」

「つか、なんで·····、何があったんだよ?俺に言えねえのかよ·····」



もう、本当にやめて·····。


「なんでそんなに痩せてんだよ、それも言えねぇのかよっ」

やめて·····っ。


「誰かに何かされたとかか?」

ほんとにもう·····。


「言ってくれよ、このまま終わりとか絶対嫌だから」

「やめてっ·····」

「みつ」

「な、に、やってんだよ!」



と、その時、和臣に掴まれていた手が、何者かの乱入で離れた。

肩を息をしながら、傘をさしている人物が、私と和臣の間に入ったからで。


「大和·····」
「お兄ちゃん·····?」
「え、あれ、フジ····?」


3人同時に出た言葉。

乱入して来た人物は、紛れもなく兄だった。


どうしてお兄ちゃんがここにいるの·····?


「お兄ちゃん·····なんで·····」

兄はわけの分からない顔つきで、私と和臣を交互に見た。


「え、いや、お前が変な男に絡まれてると思って。つーか、フジ、何してんだよ」


変な男に?
私が?
兄からすれば、私が和臣に絡まれてるように見えたってこと?


「話してたんだよ」

電話の時とは違う、少し声の低い和臣は、兄に返事をし。


「手つないで?」


不審がる兄は、私と和臣の間を動かなかった。



「大和·····、俺は」

「フジ、妹にちょっかいかけんの辞めてくれよ。さっきのどう見てもこいつ嫌がってただろ?」

「大和」

「もし、妹がぶつかったとかでフジに迷惑かけて、フジを怒らせたなら、俺からも謝る」

「·····お兄ちゃん·····」


まさか、兄がそんな事を言うとは思わなかった。
いつもは遊んでばかりいるのに。

友達なのに、私を庇うようなことをしている。


ポツポツと雨が降る。

地面に、雨の叩く音が響く。


「·····分かった」

和臣の、小さな声が私の耳に入った。




「ちょっと話させてくれ」

和臣が私に近づく気配がした。
兄は少しだけ考えていたようだけど、和臣の真剣すぎる声に、ゆっくりと体を動かした。




「密葉」

電話の時よりも、穏やかで、優しい声。
私は和臣の声が何よりも好きだった。
ずっと電話をしていたいほど、好きで·····。

大好きで。

今日が雨で良かった。



「もう、電話もしない、会いにこないから」

「··········っ」


泣いても、雨でバレない。



「好きだった。すげぇ好きで·····、困らせてごめんな」


私も好きだった·····。
ううん、今でも好き·····。


「あの日、助けてくれてありがとな」


最近の私は泣いてばかりな気がする。


和臣との別れ、兄に支えられながら、私は泣きじゃくりながら家へと戻った。


もう終わり、これで終わり。

本当に、和臣との関係は終わりを告げた。
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