恋するブラトップ
「…母さん、私の性欲はいったいどうしたんでしょうね…ええ、思春期からずっとみんなが持ってるはずのあの性欲ですよ、私は性欲を深い森の深い谷底に落としてしまったみたいです…」
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私には性欲がない。
友達に話しても驚かれる。健康的な女性なら必ずしも絶対に持っているはずの物、それは性欲。私にはそれがない。それが普通だと思っていたが、どうやら私が普通ではないらしい。

「チヒロはさ、最近いつエッチした??」

飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。

私は親友のヒロミとユカコとランチをしていた。そこで繰り広げられるのは女子が好きな恋愛ガールズトークだ、まさか私にこのキラーパスがくるなんて、何とか受け取り何とか返す。

「え?なんだって?」


「エッチだよエッチ!チヒロ長い事付き合ってた彼氏いたよね??どうなの?どれくらいの頻度でエッチしてるの?」

この手の話が大好きなユカコがどんどん私にキラーパスを投げてくる。何とか返さなければ。

「あぁ、エッチね、そうね、えぇっと、彼氏としたのは1年前かな。もう彼氏ではないんだけど。」

「え!チヒロ別れたの?結婚すると思ってたのに
…何で別れたの?」

365日恋愛をしているヒロミが違う角度からキラーパスを投げてくる、これも返さなければ。

「価値観が合わなかったんだよ。自分が自分でなくなるような、もう一人になりたいと思ったんだ。」

ヒロミが泣きそうな顔で私の事を見てくる、頼む、同情だけは辞めてくれ。

ユカコがラッシュをかけてくる。
「チヒロさ、1年もエッチしてないのにエッチしたいって思わないの?新しい彼氏作らないの?」


もう勘弁してくれ。

「うーん、エッチは特にしたいと思わないかな、心の拠り所みたいなのは欲しいけど、プラトニックラブってやつが良いかな。私性欲ってなくってさ。」


ユカコとヒロミが悲鳴をあげた。
ヒロミが相変わらず泣きそうな顔をして話してくる。
「チヒロ、32歳だよね、性欲ないの?
好きな人とエッチしたいって思わないの?好きだったらエッチしたいって思うよね?32歳ってまだまだ性欲あると思うよ。」

2人が憐れみの目で私を見てくる、女友達とは残酷なものだ。

「うん、もうないんだ、きっと一生誰ともエッチしないと思う。ご心配ありがとう。
なんか正直気持ち悪くって、そういうの。」


この日の恋愛ガールズトーク会は解散をした。


32歳、契約社員、独身、彼氏なし、性欲なし、胸もない、愛用する下着はブラトップ、365日ブラトップ。

ブラトップを人前で脱ぐ事は今後一切ないだろう。

でも一人で生きていくのは寂しい。

同じく性欲がないプラトニックラブができる相手を探そうと思った。
植物みたいな人、どこかにいないだろうか。

私は好きなアニメのキャラクターがデザインされた抱き枕を抱きしめながら眠りについた。
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