初老アイドルが一般人女子との恋を成就させるまで

5 告

約束した2週間後に向けて、やらなければいけないことはそれなりにたくさんあった。



まず、行き先。
航太は東京、茜はT県に住んでいるので、お互いの中間地点であるS県はどうかということになり、冬場で人も少ないだろうということでO海岸の方へ行くことになった。


そして、待ち合わせ。
さすがに、O海岸最寄りの駅前で待ち合わせる訳にもいかない。
そこで茜は、最寄り駅の2つ前の駅での待ち合わせを提案した。
航太は1つ前でもいいよと言ってくれたが、念には念を入れて、茜は2つ前にしましょうと主張し、そう決まった。
当日は、そこに航太が車で迎えに来てくれるとのことだった。



集合時間も決まり、ほっとしたのもつかの間。
次に茜がやらなければならないこと、それは、当日どんな服装でいくのか、ということだった。



あのスパノヴァの航太と会うのだ。
万が一航太の存在がバレた時、隣にいる女ダサいと思われないような格好でなければならない。
それでいて、なるべく目立たないような格好でもあるべきだ。
仮に、航太がバレても、隣にいる自分など、印象に残らないくらいに。
また、O海岸ということで、それなりに歩く可能性がある。
故に、高いヒールの靴なんてもってのほかだ。



茜はクローゼットの前で、その中身と普段美容院に行った時くらいしか読まないファッション雑誌と毎晩にらめっこをして、ああでもないこうでもないと洋服・バック・アクセサリー・靴の組み合わせを考える。
考えた組み合わせをハンガーにかけてバランスを考えながら、茜は当日この格好で航太の隣に立つところを想像する。
それがなんだかこそばゆくて、彼女は思わず笑みを零す。


だけど、すぐにきゅっと唇を結んで、緩む頬と心を引き締める。
相手から会いたいと言ってきてくれたこと、それは少なからず自分に好意があることを示している。
だけど、それに期待してはいけない。これが最初で最後だと、自分に言い聞かせる。



同時に、やはり周囲の人にバレることへの恐怖感は常にある。
楽しみな気持ちと、戒める気持ちと、怖く思う気持ち。
それが今の茜の中でないまぜになって、胸の中がぐちゃぐちゃとしている感覚がする。



それでも、時間は待ってはくれない。
時刻は23時過ぎ、明日もまだ普通に仕事がある。
小さく首を横に振って、茜は気持ちを仕切り直して、ひとまず出してある洋服やバッグを片付け始めた。
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