キネンオケ

「はじめまして」

待ち合わせのレストランで朋美は丁寧に笑顔を見せた。
お気に入りのジュエリー、香水。腕時計も、ブレスレットみたいに華奢なやつをつけて、明るく、華やかに微笑む。楽しみな約束だと言い聞かせるみたいな、お気に入りのアイテムたち。
魁に初めて会ったときとほとんど同じコーディネートなのに、まるでコンサートのときで観客に見せるみたいな表情。初対面の人にはどうもこういう顔になってしまうことが多い。

秋のワンピースにそでを通した朋美の隣で幼馴染の沙耶は、飾らない表情で淡々と話しをしていた。

「幼稚園からずっと一緒の幼馴染なんですよ。朋美はなにより一途。絶対に努力を怠らないんです」

幼馴染のの言葉に、やめてよ、おだてないでと朋美は申し訳なさそうに笑った。
目の前で年上らしい余裕たっぷりの堂々とした笑顔を見せているのが、沙耶が紹介してくれた勤務先の院長の甥っ子の医学博士という遠藤さんという人だった。
思っていたよりも若々しくはなかったけれど、思っていたよりもいい顔だった。結果的に悪くない、というのが正直な感想だろうか。

母親に言ったらかなり喜ぶに違いない。

「中央病院の先生ですって?いいじゃない!沙耶ちゃんが紹介してくれるの?ありがたいわねえ。やっぱり持つべきものは友達ね!」

さきほど実家に荷物を置いてきたときに、朋美は母親とした会話を思い出した。

「でもまだ顔を見ていないから。30代半ばって、けっこうおじさんだったらどうしよう。」
「いいじゃない、どうせみんな年をとるんだから。うまくいくといいわね!笑顔よ、笑顔!」

そういってパチンと古臭いウィンクをして送り出してくれた母親。この勢いとノリのよさに、朋美はやはり自分の母親だなと思ったのだった。

確かに誰しも年をとるのは間違いない。実際、高校生の頃よりも夜更かしができなくなったと思う。これからもっとそれを味わうのだ。体感的なものだけでなく、外見も。

シミができたり、肌の張りがなくなってきたりしたら、そんなときこそ時間を戻すふろしきで10代のころの状態に戻して欲しいものである。
再生医療は美容医療にも応用できるんじゃないかな、などと思いながら一人の青年の顔が浮かぶと、クスリと朋美は一人で笑ってしまった。

「どうかしました?」

にこやかに遠藤先生に言われて、朋美は我に返る。

「ああ、いえ。久しぶりの地元が嬉しくて」
「そうですか」

彼はにこやかに微笑んだ。
その穏やかな口調と微笑み。病院にいそうと思った。白衣を着て、聴診器を首から下げて、今日はどうしましたなどと言って、無難にこなしていそうな感じ。それはいい意味で普通だった。魁と出会ったときの異質さはまるでなくて、ありふれた穏やかな感じは、悪くないはずなのに心は何か物足りない感じはしていた。会ったばかりで何がわかるのかとも思うのだが。
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