大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾 】
韓媛(からひめ)は、先程いた所よりもさらに下った所に来ていた。
遠くを見ると、(つぶら)大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)達も見られるので、そこまで心配はしなくても良いだろう。

「確かにこの辺りは先程いた所よりも少し深そうね。別に川に入る訳ではないから、大丈夫だろうけど」

そんなふうに思っている矢先だった。彼女のさらに先の方に子供が2人いた。きっとこの辺りに住んでいる子供なのだろう。

(まぁ、あんな子供がこの辺りで遊ぶのはさすがに危ないわ)

どうやら男の子と女の子の2人で、男の子は8歳、女の子は6歳ぐらいに見える。

その2人が何やら川をじっと眺めている。韓媛はどうしたのだろうと思って、彼らの目の先を見ると、川の真ん中ぐらいに大きな岩があり、その岩に何やら布らしきものが引っ掛かっているのが見えた。

(きっとあの布をとりたいのね……)

すると、男の子の方が川の中に入っていこうとしている。川の深さはその子の腰の上辺りでまであり、水の流れが早いと危うく流されてしまうだろう。

「いけないわ。きっとこの先はさらに深くなるはずだから、もし流されでもしたら溺れてしまう!」

韓媛は慌てて子供達の側に向かった。

彼女が子供達の側まで来ると、男の子は岩の側まで行っており、なんとか布を掴む事が出来たようだ。

「お兄ちゃんー! 大丈夫!!」

もう1人の女の子が、男の子に声をかけた。どうやらこの2人は兄妹のようだ。

「あぁ、苗床(さなえ)、布はつかんだぞ」

男の子は手で岩をつかんだまま、少し自慢げにして言った。

そこにちょうど韓媛がやって来た。

「ちょっと、君、危ないから早く戻って来なさい!!」

韓媛はその男の子に呼びかけた。

「何だよ、お姉ちゃんは? 大丈夫だって、今戻る所だから」

その男の子はそう言って、岩から手を離してこちらに戻ってくる事にした。
だが川の水は腰上まで来ているので、彼は慎重に歩いている。

韓媛は少しハラハラしながら、その男の子が戻ってくるのを見守っていた。

だがその途中で片足がつまづき、彼は思わず川の中に潜ってしまった。するとそのまま彼は、川の水に流されはじめる。

(駄目だわ、この先はさらに深くなってる。早く助けないと!)

「お、お兄ちゃんー!!」

妹の苗床は驚きの余り、大声で兄を呼んだ。

その声に、遠くにいた大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)達も気がついたらしく、慌てて韓媛の元に向かう事にした。

韓媛もその男の子を追うも、どんどん彼は流されていく。

(いけない、これではこの子が溺れてしまう)

そこで意を決した彼女は、つかさず川の中に入った。川の水は冷たく、こんな状態で長く水の中にいるのは危険だ。

そこで彼女は泳いで男の子の元に向かった。男の子の方は足が付かなくなる所まで流されていた。

韓媛はその子を掴むと、そのまま陸地に男の子を必死で引っ張って向かった。だが川の水の流れが意外に早く、油断すると直ぐに流されてしまう状況である。

(早く、陸地に行かないと……)

それでも何とか陸地の所にたどり着き、男の子を後ろから押して、彼を先に上がらせた。
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