虹色のキャンバスに白い虹を描こう


もごもごと口ごもり、彼女が顔を上げる。


「好きです。それだけ、伝えたくて……聞いてくれてありがとう」


晴れやかな顔つきでそう言われてしまい、拍子抜けした。
じゃあ、と軽く頭を下げて踵を返した彼女に、慌てて待ったをかける。


「斉藤さん」


名前を呼んでから、いや呼んでどうする、と自分の蒔いた種に戸惑った。とはいえそれは一瞬のことで、自然と口が動く。


「ありがとう。……それと、応えられなくて、ごめん」


僕の言葉に、相手の目が見開かれる。ぐっと彼女の眉間に皴が寄る。憎いから、嫌いだから、生まれた皴じゃない。何か溢れそうな感情を抑え込む、そんなふうに見えた。

彼女は口を開こうとして、噤んで、開いて、を繰り返す。最後に一度大きく頷き、それ以上は一言も話すことなく僕に背を向けた。


「……航先輩」


斉藤さんが去ってから、突然馴染みのある声に呼ばれて振り返る。
どうやら物陰に隠れていたらしい。首を伸ばして周囲を見渡し、清は恐る恐るといった様子でこちらに近付いてきた。


「見てたの?」

「す、すみません……航先輩がこっちに行くのが見えたので、つい」

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