クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!

「あれでモテるのよ、うちのダンナ。社宅にいると色んな噂が耳に入ってきて、
 社内の若い子とどうしたとか…聞きたくもないのに聞かされるの。」
「まさか!」

「噂ばっかりで、時々、嫌になっちゃうわよ。」

「あの真面目な竹本君に、浮気疑惑?信じられないんだけど。」

「梓だって、もしあのまま航の奥さんだったらどうだったかわかんないよ。
 アレはかなりモテるから、浮気の心配で毎日大変だったと思うよ。」

「そう…かな?」

「あ、ゴメン。」

つい気安さから余計な事を言ってしまい、由梨は慌てて梓の顔色を見た。
彼女の表情は変わらないが、昔の傷に触れてしまったかもしれない。

「いいのよ、もう関係ない人だし…。」

由梨の考えている事は梓にもわかったので、平気な顔をして笑ってみせた。
ふと、梓が腕時計を見ると、午後5時になろうとしている。

「長居しちゃった。晩御飯作る時間でしょ。そろそろ失礼するわ。」

「良かったらまた来てね、絶対よ。ダンナにも会って欲しいし
 美晴ちゃん、うちの(たかし)と仲良くなったみたいだからいつでも預かるよ。」

「ありがとう、由梨。浮気疑惑(・・・・)の竹本君によろしくね。」

二人で顔を見合わせ、今度は屈託なく笑った。

だが梓にはわかった。
由梨はヘラヘラ笑っているが、夫の事を本気で心配しているのだろう。
今度は竹本の顔も見なくちゃと、梓は思っていた。

「下まで送るわ。美晴ちゃんのランドセル持って降りよう。」

二人は社宅の3階にある竹本家から、中庭に向かってゆっくり階段で降りた。


< 45 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop