苺にはもうなれない
弘正さんが私の顔を覗きこむ。




「ん？」





「返事、してくれないの？」







その時。



ふと、ある記憶が頭の中をよぎった。







『ねぇ、どっちかが結婚するって決めた時だからね！』






私に念を押すように言った彼女の声が、はっきりと聞こえた気がした。









「清香(きよか)ちゃん……」





呟いて、ハッとした。




「司……？」




弘正さんの心配そうな顔を見て、私は思った。








そうだ、この話を受けたら。





私はとうとう、あの日に連れ戻されるんだ。





そう考えたら、背筋がぞっとした。








清香ちゃんの笑い声が、頭の中で響いている。









……結局。



私は何も返事せずに、家に帰ってきた。




「おかえりー」


自室がある2階に続く階段を上っていると、母が声をかけてきてくれた。



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