目覚めたら初恋の人の妻だった。

初恋


又、靄が掛かったような世界に居る。
そこは身体の痛みも心の痛みも感じなくて
フワフワしている。
心の痛み? どうして私はそう思ったのかしら?
そうか、久々に近くでカズ君を見たからだ。

あんなに近くで見たの中学2年以来だ・・・・

物心つく頃には私は隣に住むカズ君のことが
大好きになっていた。
両親同士が友人同士だったのもあり、BBQ を
お互いの庭でしたり、クリスマスやお正月、
ハロウィンと色々なイベントを当たり前の様に
一緒に過ごしていた。
家族旅行も一緒に行くような仲だった。
幼い私が4歳上のカズ君に恋心を抱いてしまうのは
仕方が無い事だったと思う。

カズ君はどんな時でも素敵だった。
優しくて正義感に溢れていて頭が良くて
カッコ良くて、低学年の小学生から見ても
整い過ぎた顔は罪だと思っていた。

一緒に出掛けると無駄に女性に声を掛けられる
しょうもない理由で。
道なんて、そこに立っているお巡りさんに聞くのが
正解なのに、女性は不正解なカズ君に話しかける。

でも、カズ君の欠点はそんな女性にニッコリと
極上の笑みを浮かべ
「この辺りは詳しくないのでスミマセン。」
と定型文の様に口にしていた。
このワンブロック奥に豪邸を構えている
加瀬家の跡取りなのに・・・

優しそうなのに全ての人に優しくは無かった。
それは学校で”困った人には親切に”との教えを
刷り込まれている幼子には不誠実だけれど、
私には優しいと 何処か誇らしくあった。
そう思う時点で私も欠点を抱えていると悟る。
反面、その感情を共有している様で
歓喜していたのを誰にも悟られないように
していたのは”柚菜”という虚像を壊したく
なかったのかもしれない。

一番下の何も解らない幼子のフリをしていたから
好きな人に”スキ”と躊躇なく口に出来、その腕に
ぶら下がれる権利を手放したくなかった。

だから全て知らないフリをした。




4歳上のカズ君、2歳上の姉の香菜、そして私は
兄妹と思われるほど仲が良く、両親が食事会やら
会合に呼ばれる時はどちらかの家で3人一緒。
特に真夏の台風の夜は、寄り添って過ごすのが
当然の必然。

台風の影響が出る日でも両親達の仕事関係の
付き合いは無くならなず、我が家の通いの
お手伝いさんは交通機関の麻痺を懸念し、
早めに帰宅をするように促す両親。
必然的に住み込みのお手伝いさんが居る加瀬家で
幼子3人で寄り添う。

幾らお手伝いさんが居たとしても、そこは他人だ。
だから私達3人は文字通り肩を寄せ合い、
雷が遠ざかるのを待った。
3人で、怯えて過ごしていたのに、何時の間にか
カズ君は雷を怖いと思わなくなり
私達を守るように、面白い話をしたり、冒険と称し
暗闇に光る稲妻を真っ暗な部屋で見つめ、
「綺麗じゃないか」と口にしていた横顔に魅了され、
その横顔を見たいと雷を心待ちにするようになった
少女だった私。
< 3 / 100 >

この作品をシェア

pagetop