目覚めたら初恋の人の妻だった。

少しづつ現実に覚醒してきている柚菜を腕に
感じながら五感をフル活用して
柚菜の一挙手一投足に目を瞑りながら
全神経を集中させる。
どうか自分の鼓動が柚菜にバレませんようにと
願いながら

指先に感じる気配で柚菜が完全に覚醒した事が解り、
ドキドキも最高潮になるどうか、このまま・・・
「あっ   えっ・・」
動揺したのか言葉にならない言葉が聞こえるが
ひたすら寝たふりをし、腕に力を入れない様に
それでいて逃がさない様に囲い込み、
絶対に離したくない意思を表す
どうかこの腕から逃げないでとドキドキしながら

「え? どうして?? 」
戸惑いの声が  でも、振り払いはされず、
胸の痛みが緩和されるが、一生懸命に俺を
起こさない様にしながらも逃れようとモゾモゾと
体勢を変えようとしているが、
嫌だ・・絶対に離したくない。
だから

「 ・・・う~ん」と寝ぼけた声を出しながら
今度は 腕に力をいれて抱きしめる。
柚菜は俺を起こしてしまうのは忍びないと何時も
思ってくれていたからその純粋な気持ちを
利用させて貰う狡い俺を  嫌わないで
案の定、ピタリと動くのを止め、息を殺し 
ジッと俺の腕に抱かれている。

柚菜の心臓の音なのか自分の音なのか
解らないほどに同じリズムで打つ心地よさに
やっぱり手放す事なんて出来ない。
愛しているのなら手放すのも、
柚菜の幸せを優先させるべきなのだろうが
そんな理解がある男になんてなれないし、
なりたくもない。

そのまま、柚菜の頭に唇をおとし、柚菜の匂いを
満喫しているうちに夢の中に堕ちていく。

その瞬間に「  すき  」と
柚菜の声が聞こえた気がした。
夢か現か・・・希望が聴かせた幻聴か・・・・

うたた寝程度で過ごした夜が嘘のように
短時間の出来事なのに余りにも心地よくて
疲れも、疲弊した心も少しだけれど緩和される
安らぎ。
何日も眠れなくて疲れ切っていた身体が
軽くなっているような感覚に泣きたくなった。
どうしてこの手を離せよう・・・
まるで自分の一部のように感じる柚菜。

さっきは起きようとしていた柚菜も
静かに寝息をたてている。
柚菜も俺と同じで眠れてないのかもしれない・・
自分の事ばかりで柚菜だって同じ様に
疲弊していたに違いない
その寝顔に向かって

「ごめんな   」
と、口にしながら自分の手の甲で柚菜の頬を撫でる。

謝って済むものじゃないが、この言葉は
許しを請うのではなく心の底から
申し訳ない気持ちが口をついだだけ 
俺の本心で懺悔

泥臭くてカッコ悪くても何度拒絶されても
失う事なんて出来ない
柚菜が居なくなること以上の恐怖はない
だったら足掻こう!
足掻いて、足掻いて縋ろう!柚菜とリンクした
心臓の音と、腕の中から抜け出さなかった
柚菜に一縷の希望を抱いて。


ー 一那side 了 ー
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