日陰のベンチで、あなたに会いたい

高校2年になっても、天気が良くてちょうどいいときにはこの場所に通っている。

その日も、春になり程よい温かさが心地よくてごろごろしていた。

遠くから聞こえる生徒の笑い声や鳥の鳴き声など、静かだからこそ心地よく感じるこの場所に、足音が近づいていると気づいた。

その足跡は、僕と倉庫を挟んだ反対側で止まった。

あのベンチが置いてある方だ。

「え、ここにベンチがあるんだ。
静かで落ち着く場所だなぁ。今日はここで食べよう」

その声にドキリとする。

高めの声で、明らかに女子の声だ。

自分だけの場所ではないのは分かっているが、自分のお気に入りの場所を害されたような気持になり、心の中で舌打ちをした。

しかも、女子から逃げたくてこの場所を見つけたのに、その元凶の女子にこのお気に入りの場所を見つけられてしまったのだからたまったもんじゃない。

ああ早くどこか行ってくれないか。

または、僕がどこかへ行きたい。
でもここから立ち去るにしても、移動するには彼女に僕の存在を知られてしまうしなぁ。

この場所が気に入ったなら、明日もこの子は来るのだろうか。

ああもうこの場所に来るのやめようかな。

などと悪態ついていた僕の思考を止めたのは、裏側のベンチに座っているであろう“顔も知らない女子”だった。
< 8 / 19 >

この作品をシェア

pagetop