社長、それは忘れて下さい!?

「お前が秘密の関係を楽しみたいなら、俺はそれでもいいぞ?」

 涼花の手のひらの中央に唇を寄せながら、龍悟が悪びれもなく笑う。涼花は『そういう意味で言っているのではない』と思ったが、抗議の言葉を紡ぐ前にふいっと顔を背けられてしまった。

 そのまま空いた手で口元を押さえながら静かな息を漏らす。どうやら龍悟は欠伸を噛み殺しているようだった。

「社長、疲れてるんですよ。もう寝て下さい」
「あぁ……そうだな」

 怒りの感情を仕舞い込んで頬を膨らませると、龍悟も素直に頷いた。

 今日は朝からパーティの準備に追われ、主催としてイベントに臨み、涼花の残業に付き合わせた挙句、体力まで使わせてしまった。疲労を隠しきれていない肩にシーツをかけると、龍悟は涼花の身体を抱き寄せてそっと目を閉じた。

 静かになった腕の中で、龍悟の体温と静かな鼓動を感じる。

 しばらくは先に眠ってしまった龍悟の睫毛を見つめていたが、そうしているうちに涼花の元にも眠気がやってきた。今のうちにバスローブを着てしまおうかとも考える。だが愛しい人の腕の中から逃れて実行に移す前に、やってきた眠気が涼花を夢の世界へ滑り落とした。
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