社長、それは忘れて下さい!?

 首を傾げるエリカに、もう一度『ならないよ?』と念押しする。だがエリカは納得していない様子だ。

 考えてみれば経営者であるエリカには上司がいないので、感覚がわからないのかもしれない。独立する前は別のネイルサロンに勤めていたこともあるが、職場はすべて女性だったと聞いている。

「もう一人の秘書さんはどうなの?」
「藤川さんは仕事はできるけど……見た目は社長と正反対だよ。髪は染めてるし、ノリは軽いし、ほんとに社長秘書なのか不思議に思うぐらい。あと彼女いるって言ってた」
「なんだぁ、彼女いるのかぁ。残念だね?」
「えー、残念じゃないですー」

 涼花が頬を膨らませると、エリカが楽しそうにつついてくる。その指から逃れようと身を引くと、エリカは更に愉快そうに涼花の頬を追いかけてきた。

 エリカの意識を龍悟から逸らすことに成功し、さらに先ほどの話題もすっかり忘れてくれている。涼花は内心ほっとしたが、そのうち元の話題を思い出したらしい。エリカに来週の予定を確認され、涼花は再び答えに窮した。
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