社長、それは忘れて下さい!?

「何があったのか、聞いてもいいか?」
「……」
「もちろん、言いたくないのなら言わなくていい」

 やはり龍悟は、他人の心情をいとも容易く察知する。そして寄り添うように励ますように、いつも優しい言葉をくれる。その優しさに安心する。

 ぐちゃぐちゃに仕舞い込まれた情報を、頭の中で整理していく。人の記憶は知識を重ねて経験を繰り返すことで他の記憶と絡み合い、より複雑で高度な記憶へ変化していく。それらは脳の中に蓄積され、いつか『思い出』に変化する。

 いい思い出も、悪い思い出も。

「少し、変なことを言いますけど……ちゃんと忘れてくださいね」

 じっと龍悟の瞳を見つめて告げる。不思議な前置きを聞いた龍悟が、息を飲んだ気配を感じ取る。

 ――それはエリカしか知らない、涼花の苦い記憶。

 本当は話すべきことではないだろう。涼花は龍悟に想いを寄せていて、それ以前に直属の上司だ。

 けれど知って欲しかった。知った上で、いつものように『焦るな、大丈夫だ』と優しい笑顔で背中を押して欲しかった。

 彼が心配してくれるのを知っていて話そうとしているのだから、自分はずるい人間だと思う。けれど止められなかった。龍悟が笑い飛ばしてくれなければ、また立ち直れなくなる気がした。

「社長は……女性を抱いた後に、記憶を無くしたことってありますか?」
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