社長、それは忘れて下さい!?

 自分の勤める会社の社長であり、直属の上司である龍悟の顔をまともに見ることが出来ず、涼花は俯いたまま小さく返答した。龍悟はその様子には目もくれず、自分のデスクの傍でジャケットを脱ぐと旭に軽口を叩く。

「二人とも早いなぁ。もう少しゆっくり来てくれよ」
「どこの世界に社長より遅く出勤する秘書がいるんですか。社長こそ、もう少しゆっくり来てくださいよ」
「やだよ。これ以上遅く来ると渋滞にハマるから、俺はこの時間でいーんだって」
「じゃあ俺たちの出勤時間も変わらないですね」

 唇を尖らせる旭の様子に、龍悟が声を立てて笑う。

 涼花は普段から、龍悟や旭と必要以上に雑談を交わすことはなかった。聞いている分には楽しいが、頭の回転が早い二人の軽快なトークのスピードについていけず、あちこち転がる話題を追うことに疲労してしまう。

 最初こそそんな冗談めいた会話にも参加していた。だが何も言わなくても二人が気にしていないと気付いてからは、無理して日常会話に入らなくなった。だから今日もこの会話に加わらないことも、特段不思議には思わないはずだ。
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