社長、それは忘れて下さい!?

 龍悟はそう言って笑みを零すと、やってきたエレベーターに颯爽と乗り込んだ。扉が閉じるまで頭を下げていたが、完全に扉が閉じてからきっちり二秒後、涼花のこめかみはエレベーターの入り口の銀色の枠にぶつかっていた。

「はぁ……もう」

 龍悟の意図がわからない。気を抜くとまた激しいキスの感覚を思い出してしまう。

 合コンに行くのを嫌がる素振りをしたということは、もしかしたらまだ可能性があるのかもしれない。なんて淡い期待を持った、昨日の就寝前の自分に忠告したい。そんなわけないでしょう、あと九時間後に現実を見るのよ、と教えてあげたい。

 こめかみが冷たい。二十八階建ての上三階は重役フロアで、夏の暑さにもしっかりと空調が行き届いている。だから無機物はすぐに冷たくなる。

 頭を冷やすには丁度良いと思ったが、すぐに執務室に旭が残っていることを思い出す。涼花はまだ冷やし足りない頭を名残惜しい気持ちで持ち上げると、重い足取りで執務室へ戻っていった。
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