社長、それは忘れて下さい!?

 旭は龍悟のデスクの傍まで来ると、数枚の書類を差し出してわざとらしいほど丁寧に頭を下げた。

 旭の横顔からは疲労感が窺える。目の下にはうっすら隈が浮かんでいるのがわかるが、かすかに笑みを浮かべた表情からは楽しげな印象さえ受けた。

 龍悟は受け取った書類の一枚目を上から下まで五秒で読み流し、さらに二枚目、三枚目……と同じ速さで目を通していく。涼花も緊張感をもってその様子を見守っていたが、龍悟は一枚目に視線を戻すと口の端を上げてにやりと笑い、瞳の奥に怪しい光を宿した。それは一緒に仕事をしているとたまに見ることがある、野心を孕んだ狩人の目だ。

「よし、これで行くか。ご苦労だったな」
「恐れ入ります」

 龍悟が労うと、旭も安堵したように息をつく。龍悟は旭から視線を外して涼花に向き直ると、たった今受け取ったばかりの書類を涼花の目の前に差し出してきた。

「秋野、この内容を頭に叩き込め。パーティーは来週だから時間がないぞ」
「どういうことですか?」

 話が見えず聞き返すも、龍悟は笑みを浮かべるだけだ。

 説明を諦めて、差し出された書類を受け取る。そこには目前に迫ったレセプションパーティーの当日のスケジュールが書かれていたが、よく読み込むと涼花が知らないプログラムが入っている。

 聞いていないと思いつつ次のページをめくる。するとそこには、やけにキュートでファンシーなネーミングが冠された新たな企画の内容が記されていた。
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