金曜日はキライ。


常盤くんが野球をやっていたって知ったときからずっと、ユニホーム姿が見れなかったことが残念だった。見たいと思っていた。だってぜったいに似合うから。


「持ってないから買った」

「はは!清雨野球うまいもんなー!」


クラスメイトに肩を組まれて楽しそうに笑っている。


ねえ常盤くん、見せてくれてありがとう。なんて勝手にお礼を言いたくなるくらい感動してる。見る機会ないだろうなって諦めてたから。同じ小学校と中学に通いたかったなって思ってたんだよ。

同じ学校だったら、野球うまいねって、すごいねって、かっこいいねって…言えるかわかんないけど、夢にむかってがんばってねって、言いたかったな。



きみがやめないで済むように。
きみが負い目を感じないで済むように。


常盤くんがかなしむ顔見たくないの。

どうにかして笑っていてほしいの。



「昨日は夢なんてわすれたって言ってたのにな〜。思い出したんだ?」


常盤くんは強くない。でも強く見せたがりで、かっこつけたがりで、本当にかっこよくなってしまうから困ったひとだよ。


クラスメイトに囲まれている野球帽を片隅で見ていると、そっと目が合った。

確かに目が合った。

呼吸がおかしくなりそうなくらい、心臓が弾んでいる。


こんなふうになるのは、彼だけ。



「昨日ある子と話してたら」


「…っ」


「夢見てたこと、思い出した」



逃げたくなることもやめたくなることも、くるしいこともたくさんあったけど。


やっぱりって思った。

やっぱり常盤くんのことを好きになれてよかったなあって、思えた。


< 210 / 253 >

この作品をシェア

pagetop