金曜日はキライ。



°


あれはとある金曜日の、放課後だった。

まだ始めたばかりだったバイトに向かうのが憂鬱で、おまけに日葵は千昂くんとデートで一人きりで、さらにおまけに雨が降っていた、授業でやった物語に出てきた『狐の嫁入り』だ。空は青くて明るいのに、細い雨が降る。

日葵と千昂くんはわたしの少し先を歩いてた。
帰りの時間被っちゃったなあ…と、その場で立ち止まって邪魔しない距離を保つことにした。あんまり見ちゃいけない、と思って背を向ける。


爽やかな優しい天気。だけどバイトの前だから濡れて帰るわけにはいかない。そう思って、置き傘にしてた真っ赤な傘を差して校舎を出た。きっとこの後何もなかったら傘は差さずにのんびりこの天気を楽しんだと思う。

色は赤が好き。でも似合わないから、たまにだけ使う傘とか、ハンカチとか、ポーチとか、そういうのだけにしてる。


それにしても、バイト、嫌だなあ。メニューも覚えられないし、店長以外の人とあまり話せないし。店長だって、激しい性格すぎてついていけないときがある。やっぱり居酒屋なんて向いてなかったよ。

でも始めたからには3年間続けたいし……なんて。そんなことを考えていたら、地面に当たる雨が無くなってることに気づいた。

傘を閉じて、そっと見上げる。雨はすっかり止んでいた。ラッキーだ、と思ってると、まぶたにひとつぶ、しずくが落ちた感覚がした。


そこを拭うと、手の甲がしめった。


残りの雨粒かな。

校舎の向こうで青い空が広がってる。


そして、窓には、常盤くんの姿があった。


「常盤く…」


どうしたんだろうと、思わず名前を、呼ぼうとした。

だけどできなかった。

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