金曜日はキライ。


常盤くんの席にプリントを置きながら聞くと、胸にグサッと何かが刺さったようなしぐさをする。ごめんって謝ったけど、かわいくてちょっと笑ってしまった。


「前に道端で外国人に話しかけられてさ。たぶん道案内してほしかったんだと思うけど、できなかったんだ。すげー情けなかったからせめて言ってることくらい理解してみたいと思って」

「あ、同じ理由だ…」


ちょっと照れくさそうな笑み。

それにまた、好きが積もっていく。いいなあ、常盤くん。そういうところがやっぱりとても、とても好きだなあ。


「本当に?」


首を縦に頷くと、常盤くんは眉をハの字にした。


「露木、英語得意じゃん」

「聞き間違って、間違ったことを教えてしまったことがあって。それ以来英語だけはがんばりたいんだ」


誰かのことを困らせたくないんだ。


常盤くんのことも、困らせたくない。

だからこの気持ちも、笑ってほしいことも、たまには自分を優先してあげてほしいことも、言えない。


「そっか。がんばろうな」

「うん。あの…わかる範囲なら教えるね」

「助かるよー」



あの日雨がやまなければ…って何度も思った。知らないままでいたかった。

そう何度思っても、けっきょく別の想いにたどり着く。今みたいに常盤くんのことを知るたびに、


きみの奥の気持ちに気づけて、きみを好きになれて、よかったって。

それがわたしだけでよかったって。


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