スパダリ外交官からの攫われ婚
「ああ、加瀬様! 荷物は私がお持ちしますので、すぐにお部屋の方にご案内させていただきますね!」
義母はもう琴には興味もないというように、加瀬に声をかけている。言いたいことだけを一方的に言われる、それも琴にとってはいつものことだったのだが。
ここにはもう自分は必要ないだろうと、別の仕事に向かおうとする琴の右手が掴まれ驚いて振り向くと……
「案内はこの子にしてもらう、女将は後で優造さんと一緒に部屋に来てくれればいい」
手を掴んでいたのは加瀬で、自分に部屋まで案内しろという。女将である義母が自ら案内すると言っているのに、それを断って。
「え? この子にですか? でもこの子は……」
「ああ、部屋に案内するだけで女将の手を煩わせるのも申し訳ない。彼女は小柄だがスーツケースくらい運べるだろうしな」
そう言うと加瀬は琴にスーツケースを押し付けて、さっさと部屋へと案内するように言う。女将は納得いかないようだが、表面上は優しい笑みを浮かべ琴に加瀬を部屋まで連れて行くようにと言った。