スパダリ外交官からの攫われ婚


「美味しい! このお魚の煮つけはとっても美味しいです。志翔(ゆきと)さんも一口食べてみませんか?」

 そう言ってニコニコと微笑む(こと)の様子を、加瀬(かせ)は優しい目で見つめている。どれだけお洒落な格好をしても、中身は素直な琴のままなのが良い。
 いつもの琴も小さく可憐な花のように可愛いが、今の彼女は大輪の薔薇のように美しい。周りの男の視線からガードするためにわざわざ奥の席に彼女を座らせてしまったほどだった。

「いいよ、俺はこっちを食べるし。それにさっき同じことして真っ赤になってただろ?」

 喫茶店での自分の行動を思い出し、琴はまた頬を染めていく。すぐに同じことを繰り返してしまう自分に、加瀬が呆れてないかと心配にもなった。
 もちろん加瀬はそんなことは微塵も思ってなどいないのだが。

「それは、もう忘れてください! 私はただ美味しいものを志翔さんにも食べて欲しかっただけで」

 そう一生懸命説明するが、加瀬は楽しそうに笑うだけ。そんな彼の笑顔にときめいてしまい、最後は琴の方が諦めるしかなくなるのだ。

「分かってるよ。ほら、冷めないうちに食べてしまえ」

 拗ねた顔をする琴の頭頂部にその大きな手を伸ばしてくる加瀬。その手のひらで頭をポンポンとされれば嬉しくて、琴は大人しく食事を再開したのだった。


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