スパダリ外交官からの攫われ婚


「ありがとうございます。お先にお風呂入らせてもらいました」

 あまりにゆっくり浸かっていたので、少し逆上せてしまったのか(こと)の顔が赤い。それに気付いた加瀬(かせ)が彼女をソファーへと呼ぶので、琴は素直に彼の傍へと歩いて行った。
 
「ずいぶん長風呂だと思ったが、こんなになるまで浸かっていたのなら声をかけに行くべきだったな。大丈夫か?」

「あ、すみません。大丈夫です……」

 火照った頬に手を伸ばされると、その指の冷たさが気持ちいいと感じてしまう。ついつい琴は加瀬の手に自分から頬をすり寄せてしまっていた。
 疲れて眠いせいもあるのか、頭がぼんやりとして自然に甘えるような行動をとっていると本人は全く分かっていない。

「眠い時の琴は素直に甘えてくるから可愛いな」

 機嫌の良さそうな加瀬の声が聞こえてくる。そのまま引き寄せられて抱きしめられれば、その広い胸にすべてを委ねて良いような気さえするから不思議だ。
 琴の視界がゆらゆら揺れる、どんどん瞼が重くなってもう我慢出来ないようだ。

「……ったく、仕方ないな。ゆっくりおやすみ、琴」

 いつもよりも優しい加瀬の声音。ふわりと撫でられる頭が気持ち良くて、そのまま琴は深い眠りへと落ちていった。楽しかった今日一日を夢に見ながら……


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