スパダリ外交官からの攫われ婚
本当に攫いたいのは初恋の君


「おい、起きれるか? このまま寝るのならベッドに運んでやろうか」

 いつの間に帰ってきたのか、ソファーに横になった(こと)の傍には加瀬(かせ)が立っている。少し心配そうに彼女を覗き込んだ後、加瀬は返事をしない琴を抱き上げて寝室へと運んだ。
 最初に抱き上げた時も思ったが、琴はとても軽い。小柄だというのもあるが体重はきっと標準より随分少ないはずだ。
 あの家でどれだけ酷い扱いを受けてきたかは分かっているつもりだったが、それでも早くあの場所から連れ出せなかったことを加瀬は悔やんでいた。

「……ううん、ゆき……さん」

 ベッドにそっと寝かせれば、そんな風に寝言で加瀬の名前を呼んでくれる。それが彼女からの信頼を得られた気がして加瀬はとても嬉しく感じていた。
 琴が起きている時には照れくさくてつい意地の悪い事も言ってしまう、いちいち反応してくれる彼女が可愛くて。でも、それと同時に琴を守りたい気持ちもどんどん強くなる。

「絶対、俺が守ってやる。これから先ずっと……」

 彼女の頬に手を伸ばせば、きめ細かな肌の感触に少し胸が騒ぐような気がした。気持ちが通じ合うまで手は出さない、そう決めてはいるものの琴の可愛い寝顔に理性がどこかに旅立ってしまいそうになる。
 ……湧き上がる煩悩を振り払うように加瀬は軽く頭を振ると、立ち上がりそそくさと寝室を後にした。


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