スパダリ外交官からの攫われ婚
「何を想像してるんだ、琴は意外といやらしいな?」
わざとらしくそう言う加瀬に琴は揶揄われたのだと気付いて頬を膨らませる。こんな風に素直な反応が出来るのも彼の前だからだ、それを笑って受け止めてくれると分かっている。
琴が思った通り加瀬は彼女の頭に手を置いてポンポンと叩き、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「いやらしいのはそうやって私を揶揄って遊ぶ志翔さんの方ですから」
彼女なりに強気で言い返したつもりだったのだが、琴の言葉に加瀬の手の動きが止まる。どうしたのかと思い彼を見上げると……
「どうして、そんな顔をしてるんですか? えっと、もしかして熱が?」
さっきまで普通だったはずの加瀬の顔が赤い様な気がする、口元に手をやって半分ほど顔を隠しているがその視線は泳いでいる。
琴の言葉には心当たりがあった。加瀬は先程の彼女の寝姿を見て不埒な妄想をしかけたことを、つい思い出してしまったのだ。
「……別に、何でもない。ほらさっさと席についてくれ、料理が冷める」
初心な妻の前でそんな事を口にしようものならどれだけ幻滅されるか分からない。そんな恐怖から加瀬はさっさと話を切り上げて、何も知らない琴のために夕食を用意した。
加瀬の態度を不思議に思ったが、出された加瀬の料理の美味しさにそんな事はすぐに忘れてしまうのだった。