スパダリ外交官からの攫われ婚
いきなり後ろから声を掛けられ振り返ると、そこの立っていたのは先ほどの話題の中心の人物だった加瀬で……
もう夕食も終え、ゆっくりしているはずの時間のはずなのに加瀬はまだスーツ姿のまま。そんな彼は冷めた視線でジッと琴を見下ろしていた。
「あの、加瀬様……? どうしてここに?」
「ここは旅館の庭だろう、客の俺が見に来て何がおかしい?」
確かに加瀬の言う通りだ、ここは旅館の中でその中に造られた池は誰だって見ることが可能である。
だがよりにもよって、誰にも聞かれたくない呟きを加瀬に聞かれてしまうなんて。そう琴は恥ずかしくなってしまう。子供みたいだと笑われるだろうか?
それ以上何も言えず琴が黙っていると、加瀬はため息をついてもう一度繰り返す。
「なあ、あんたはここから攫われたいのか? その理由は?」
何故そんな事を聞いてくるのか、琴は加瀬の発言の意味が分からない。まさか本当に攫ってくれるわけもないだろうに……
加瀬は父や継母の恩人のはず、自分の話をきちんと信じてもらえるのかも分からない。そんな中で自分の事得お素直に話す事は躊躇われる。
そんな琴に、加瀬は静かに言った。
「別に俺はあんたが困るようなことするつもりはない、面倒くさいしな。ただの暇つぶしだから気にせず話せ」