スパダリ外交官からの攫われ婚
加瀬のそんな言動に限界を超えたらしい琴が、腰を抜かしてへなへなとその場に座り込む。頭から湯気を出しそうなほど赤面して瞳には涙を浮かべている。さすがの加瀬も罪悪感を感じたのか……
彼女の前に同じように座り込むと、困ったような笑顔を浮かべて謝った。
「揶揄って悪かった。今のは本音ではあるが、琴の嫌がることをするつもりはない」
「……別に、嫌なわけでは」
そう、嫌なわけではない。加瀬に迫られたらきっと琴は本気で拒否なんて出来ないだろう、彼を愛しているのだから。ただ恥ずかしい、慣れない事の連続で緊張して素直になれないだけ。
それでも加瀬は琴の心の準備が出来るまで待つと言ってくれている、少しくらい強引に手に入れることも可能だと彼なら分かっている筈なのに。
「俺は欲張りだからな。嫌じゃない、ではなく俺が欲しいと言われたいし」
「ほし……っ⁉ 絶対言いません、そんなこと!」
こんな状態になってもまだ琴を揶揄わずにはいられないらしい。よほど妻の赤面する様子が可愛くて仕方ないのか、加瀬はとても楽しそうだった。
空港で出会ったころとは違う、素直で表情豊かになった彼女を見て加瀬はずっと昔のことを思い出していた。ようやく約束が守れそうだ、と。
「志翔さん? どうしたんですか」
「ああ、何でもない。それよりも腹減ってないか、何かデリバリーしよう」
何か誤魔化された気もしたが、琴もそれ以上は追求するのはやめておいた。十分過ぎるほど彼が自分を想ってくれていることが分かったのだから。
今も覚めない夢の中にいるようで、スマホを持って立ち上がる加瀬の後ろを琴はただぼんやり眺めていた。