スパダリ外交官からの攫われ婚
予想しない二度目の攫われ婚

「これは……どういうことだ?」

 そう呟いた加瀬(かせ)の目に映るのは予想もしなかったような光景だった。頭の片隅ではこの建物の奥にこんなスペースがあったのかと思ったが、そんなことを暢気に考えている場合ではない。
 決して広いとは言えないが、そこが何をする場所かなんてことは一目で分かることだった。ただ、何故こんな用意をされているのか一番の問題なわけで……

「何のつもりだ、これは。説明はしてもらえるんだろうな?」
「そう睨まないでくれないかしら。どうせすぐに分かることだし、貴方ならとっくに予想はついてるんでしょう?」

 この状況下で考えられることなど一つだけだが、それを認めたくないから聞いている。ジュリアはそんな様子の加瀬を見ても、冷静にそう返事をするだけだった。
 それでも奥の一点を見つめる彼女のその瞳は、どこか悲し気で……どうしても加瀬には、ジュリアがこの状況に喜んで協力しているとは思えなかった。

「貴方には一番前の席で見ていて欲しいそうよ」
「へえ、そういう悪趣味なところは変わらないんだな。いや、一段と酷くなっているかもしれない」

 頭の中に浮かぶ人物に反吐が出そうになるが、今はまだ(こと)のために耐えるしかない。加瀬は目の前に立っているジュリアの横を通り過ぎ、そのまま奥にある祭壇近く一番前の席へと移動した。


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