スパダリ外交官からの攫われ婚
トボトボと廊下を歩き外に出る。この辺りは少し町から離れた場所にあり、この時間には外は真っ暗になる。琴は外灯の灯りだけを頼りに少し歩くつもりだったのだが……
「おい、こんな時間にどこに行くつもりだ?」
先ほどから足音が聞こえてくると思ってた琴はさほど驚かず後ろを振り返る。ムスッとした顔で加瀬は琴を見ているが、今はそれもどうでも良い気分だった。
部屋を出る時に廊下に加瀬が立っていたのが気付いていた、でも今自分を追って来て欲しいのは彼ではなかった。
「どうしてついてくるんですか? 父や継母に頼まれたわけではないですよね」
そんな事をあの二人が加瀬に頼むはずがない、むしろこれで諦めて見合いを受ければ願ったり叶ったりだと喜ぶだけだろう。
……そう考えると、胸が痛い。頑張ってもそれだけじゃダメなのかと怒りすら湧いてきそうだった。
「頼まれても何も、あんな風に出て行かれたら誰だって追いかけてしまうだろ?」
その誰だってに父も継母も入らないのに? そんな皮肉を何とか喉で飲み込んで、琴は小さく頷いた。こんな時に同じような人を見たら自分だって追いかけるはずだと思ったから。