スパダリ外交官からの攫われ婚


 だが(こと)は義母とは上手くいかず、彼女の連れ子の娘二人からは良いように使われている。
 父親思いの優しいことはそんな不満を父に言えば困らせてしまうと思い、自分は我慢するしかなかった。

 ウインカーを出して目的地の方向へ左折する、そのまま広い駐車場の中へと入り車を停車した。
 ちょうど一基の飛行機が空へと高く飛んでいくの見て、琴は呟いた。

「ここじゃないどこか遠く、誰かが攫って行ってくれたらいいのに……」

 ぼんやりとそんな叶いそうにない望みを口にする。意味なんてない、それくらい琴は精神的に追い詰められていた。
 もともと明るくのほほんとした性格の事だったが、いつの間にかギスギスした感情が抑えられなくなりそうになって。
 そんな自分に対して嫌気がさし自己嫌悪に陥るのを繰り返してしまう。

『大事なお客様だからね、気を付けて迎えに行ってくれ』

「そう言うのなら、お父さんが自分で行けばいいのに……」

 それでも義母の方を優先する父、彼女の言うことが一番なのは経営者として問題がある気もしていた。
 琴は腕時計で時間を確認するとバッグを持って車を降りる。待ち合わせは空港内のゲートだと聞いている、琴は少し速足で空港へと向かって言った。




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