スパダリ外交官からの攫われ婚
「す、すみません! 私ちょっと寝ぼけちゃってて。ちゃんとクリーニング代を支払いますから!」
オーダーメイドだと聞いて慌てて加瀬に謝る琴に、呆れた様子の加瀬が一言。
「別にいい、どうせクリーニングに出すのはあんたの仕事になるんだから」
それも当然というように言われたので、琴は加瀬が何を言っているのか意味が分からなかった。だがすぐに彼が言わんとしている言葉の意味を理解して……
「私の、仕事……? え、ああっ!」
加瀬と結婚し妻になる琴が夫のスーツをクリーニングに出す、確かに当然と言われればそうなのかもしれないが。
こういう言葉を使って琴に結婚するという現実と向き合わせようとするのは少し狡いのではないか? 琴はそう思いながら頬を赤く染めて唸る。
「そういう顔をするな、あんたはこれから世界一綺麗な花嫁になるんだから」
「世界一なんて無理なことを言わないで!」
琴は自分の顔が十人並みだということを十分過ぎるほど継母や姉に思い知らされてきた。いつもチヤホヤされるのは華やかな継母や美しい姉ばかりだったから。
そんな琴の過去を知ってか知らずか、加瀬は両手で琴の頬に手を添えて自分のほうを向かせる。
「無理じゃない。俺の妻になるんだから、琴は必ず世界一綺麗な花嫁になれる」