スパダリ外交官からの攫われ婚


「な、なんですか? 私は嘘なんてついてないですよ、本当に不満なんて……!?」

 そう言いかけた(こと)の言葉は加瀬(かせ)の唇によって塞がれる。彼からキスされているのだと琴が気付くまでに数秒は要しただろう。
 先ほどの誓いのキスは頬だったのに、今度は間違いなくお互いの唇が触れていた。
 ここの空気が乾燥しているのだろうか、加瀬の唇は琴が想像していたのより少しかさついているような気がした。
 琴は自然と瞳を閉じて加瀬のキスを受け入れる、こうして彼が触れても嫌な気はしないから。

「嘘つきだな、やっぱり不満だったんじゃないか」

 抵抗しなかった琴を見て加瀬は意地悪く微笑んでそう言ってくる。そんな彼の靴の踵をつま先で蹴ってみせるが、図星かと言われますます揶揄われてしまった。

 着替えを済ませタクシーに乗せられると、温かい飲み物を渡された。そのまま加瀬に引き寄せられて彼の身体に寄り添うような体勢を取らされる。

「あの……?」

「俺の家まで距離がある、このまま少し休んでいろ」

 そんなに眠くないと言うつもりだったが、飲み物を飲み終えると自然と睡魔に襲われそのまま琴は加瀬の肩を借りて眠りについた。


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