辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 耳元にはドレスと同じくマオーニ伯爵邸から持参したサファイアのイヤリングを飾りながら、サリーシャは記憶を辿っていた。

 ブラウナー侯爵家のご令嬢、マリアンネとは何回も王都の舞踏会や夜会で顔を会わせたことがある。サリーシャより少し年上の二十二歳で、艶やかな栗色の髪と大きな茶色の瞳が魅惑的な、美人だった。そして、サリーシャ同様に、今年二十歳を迎えたフィリップ殿下のお妃候補として最も有力視されていた一人だった。
 フィリップ殿下と長らくもっとも親しくしていた女性は間違いなくサリーシャだったが、フィリップ殿下のお妃候補はサリーシャの他にも十人以上いた。そして、その中で侯爵令嬢かつあれ程の美しさを持つ女性はマリアンネしかいなかった。
 当時、サリーシャは他のお妃候補のご令嬢達はライバルなのだからと、マオーニ伯爵よりあまり接触することを禁じられていた。直接言葉を交わしたことはないが、脳裏に蘇るのはいつも自信に満ちた様子で微笑を浮かべている、華やかな美女だ。

 イヤリングを着け終えると、今度は同じデザインのサファイアのネックレスに手を伸ばす。サリーシャは、一体マリアンネはどんな人なのだろうと少しわくわくした気分の高揚を感じながら、首に飾った青い輝きを見つめた。


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