辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

第六話 悲嘆

■ 第六話 悲嘆

 ハンカチを渡した翌日のこと。
 サリーシャはセシリオと並び、アハマスの領主館の入り口に立っていた。ブラウナー侯爵が乗っていると思しき馬車が見えると見張り台の兵士から報告があったのだ。

 アハマス辺境伯の屋敷に到着したブラウナー侯爵を見た時、サリーシャはこの人はなんとまあ上位貴族らしい上位貴族なのだろうと、半ば感心にも近い感情を覚えた。
 たっぷりと蓄えた口ひげは芸術的なほどに横に長細く伸び、でっぷりとしたお腹はまるで妊婦のように前に突き出している。髪はよく見る貴族男性らしく、長く伸ばして後ろで一つに結われ、藍色のベロアのリボンで結ばれていた。そして、最もサリーシャがブラウナー侯爵を『上位貴族らしい上位貴族』と評した理由は、その傲慢な態度にあった。

「ブラウナー侯爵、こちらが俺の婚約者のサリーシャです」
「サリーシャ=マオーニですわ」

 セシリオに紹介され頭を下げたサリーシャに対し、ブラウナー侯爵は一瞥するのみで会釈すらしなかった。そして、一緒に出迎えた娘のマリアンネを「どういうことだ」とでも言いたげに睨みつけると、マリアンネは恐縮するように俯いた。
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