辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 そのせいかセシリオにはその気持ちがしっかりと伝わってしまったようだ。安心させるように、ポンポンと大きな手が頭を撫でる。

「早ければ、明日の午後には戻る。出来るだけ、早く戻るから」
「早く戻ってきて欲しいですが、無理はなさらないで下さい。閣下になにかがあっては大変です」

 無理な旅程は疲れや怪我の元になる。サリーシャは眉尻を下げた。

「俺が、きみと離れていたくないんだ」

 セシリオの顔が近づくと柔らかな感触が頬に触れた。斜め後ろにいるマリアンネがハッと息を飲むのが分かった。セシリオも気づいたはずだが、構わぬ様子でサリーシャの頬に手を添え、安心させるように微笑む。
 
「きみの待つところに、すぐに戻る」

 そして、振り返ると今度は太く大きな声で皆に聞こえるように言った。

「では、出発する」

 タイタリアの国旗を掲げた騎士とデオに跨がったセシリオの後ろに、お伴の騎士達が十人ほど続く。サリーシャはその姿が見えなくなるまで、ずっと玄関に立ったまま見送った。


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