辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「……」 
「なんなら、わたしから御父上のマオーニ伯爵には説明しておきましょう。それに、あなたの新しい嫁ぎ先は紹介しますよ。うちの領地の大手の商会の跡取り息子か、豪農の息子なんかはどうです? ああ、貴族の世界が忘れられないなら、親しくしている子爵や男爵あたりならなんとかなる。なんなら、うちの屋敷に来てもらってもいい」
「ブラウナー侯爵! さすがに失礼です」

 顔をしかめたモーリスが咎めるように横から口を挟む。サリーシャは、ブラウナー侯爵の言葉を静かに聞きながら、内心では怒りに震えていた。

 ようは、セシリオが婚約解消になかなか納得しないから、サリーシャに事情を察して自分から出て行けと言っているのだ。そして、『うちの屋敷に来てもいい』というのは、ブラウナー侯爵本人もしくは息子の愛人にしてやってもいい。たまには社交パーティーにも連れて行ってやる。という意味だろう。これほどまでに馬鹿にされたのは、これまでの人生で始めてだ。

「失礼? これは異なことを言う。わたしはアハマスを思ってこそ、心を鬼にして言っているのだ」

 ブラウナー侯爵は太った顔を赤くして、憤慨したように声を荒げた。
 もう、耳を塞いでこの場から逃げ出してしまいたい。けれど、サリーシャはぐっとお腹に力を入れてブラウナー侯爵を見返した。
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