辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 サリーシャは急激に気分が落ち込むのを感じた。たった一晩セシリオがいなかっただけなのに、とても心細かった。寂しかった。挙げ句の果てにあのリアリティーたっぷりの夢だ。これがあと何日かセシリオがいない日が続くのかと思うと、気分が憂鬱になる。

 しかし、便箋を元のように折り畳んで封筒にしまい、封書を裏返したとき、サリーシャはそこにある一点を凝視したまま動きを止めた。封蝋が、僅かに黒味を帯びているように見えたのだ。

 ──もしかして……これ、ダミーかしら?

 サリーシャは咄嗟にモーリスをみたが、モーリスは何事もないように、ブラウナー侯爵と歓談している。
 サリーシャが封蝋の色の意味を教えられたとき、セシリオは三通の異なる色の封蝋を並べて見せてくれた。しかし、今はこの一通しかないので、比べようもない。
 そうかもしれないし、気のせいかもしれない。これがダミーだったとすれば、いったい何を意味するのだろうか。しばらく考えてみたが結局わからず、サリーシャは封書をモーリスに返した。


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