辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 全面を覆う芝生の緑を眺めていると、かつてここを訪れた時に出会った、愛らしい少女の姿が脳裏に蘇った。キラキラとした金髪をハーフアップにして後ろで一つに纏め、夢中になって花冠を作っていた。時折、作り途中の花冠を自分の頭に合わせては何度も長さを調整し、思い出したようにちらちらとセシリオの方を見る。そして、最後に笑顔でセシリオに完成したばかりの花冠をプレゼントしてくれた。
 きっとあの時にあの少女──サリーシャに会わなかったら、セシリオは今も多くの人間を殺めた自分の行動が正しかったのかと、自分はただの人殺しなのではないかと自責の念に(さいな)まれていただろう。

 回廊が終わり王族の居住棟へ入ると、そこはひっそりと静まり返っていた。広い廊下の両側には王室お抱えの芸術家が作った彫刻や陶器など、一流の美術品が置かれている。その廊下に面したドアの一つの前で、侍女は立ち止まりトントンとノックをした。

「アハマス辺境伯をお連れしました」
「入れ」

 侍女がドアを開けると、そこは応接室だった。王族の部屋に相応しい豪華な部屋には、大きな応接セットが置かれ、そこにフィリップ殿下が足を組んでくつろいでいた。 

「待ちわびたぞ。掛けてくれ」
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