辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 サリーシャには男の人が言っていることがよくわからなかった。けれど、この男の人がいざこざの相手を沢山やっつけて、そのいざこざを終わらせたことは理解した。そして、本当は、そんなことをしたくはなかったことも感じ取った。
 サリーシャは少しだけ考えて、手に持っていた花冠を見つめた。

「では、そこで今いざこざがなくて人々が平穏に過ごせているのはあなたのおかげね。それって、とても凄いことだと思うわ」
「なに?」
「わたし達に平穏を与えてくれたことに感謝します。あなたに敬意を表して、これを」

 そう言って、サリーシャは寝そべる男の人の胸に花冠を乗せた。昔やったお姫様ごっこのように、ツンと澄まして。
 男の人は胸の上に置かれたその花冠を持ち上げると、豆鉄砲をくらった鳩のように目をパチクリとさせ、しばらくの間、それを眺めていた。そして、堪えきれない様子でくくっと笑いだし、最後にサリーシャを見つめて小さく呟いた。

「ありがとな。小さなレディ」

 その日行われていた式典が隣国との国境線付近で勃発した大きな戦いの祝勝記念式典だったことをサリーシャが知ったのは、随分と後になってからだった。
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