辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 朗らかな笑顔を浮かべるクラーラの様子から見て、嘘を言っているようにも見えなかった。

 サリーシャがセシリオを嫌う? そんなこと、全く理由がない。むしろ、約束をすっぽかしたサリーシャがセシリオから嫌われそうなものだ。とにかく、二日も連続して失礼を働くわけにはいかない。サリーシャはすぐに準備に取りかかろうと立ち上がった。

「わたくし、お湯を用意して参りますわ。昨日はそのままお休みになられていたので、お召し変えされる前に体を拭かないと気持ち悪いでしょう?」

 その言葉を聞き、サリーシャはハッとした。服を着替えるには服を脱ぐ必要がある。服を脱げば、背中が晒される。自分のこの醜い傷を、ここの侍女たちに見られるわけにはいかないと思った。

「あのっ、ノーラはどうしているかしら? わたくし、いつも着替えや湯あみはノーラに手伝って貰っているの」
「ではノーラさんを呼んで参ります。今、昨日のうちに顔合わせ出来なかった使用人達と挨拶をしているはずですから、すぐに参りますわ」

 クラーラはサリーシャの言葉を特に不審にも思わない様子で頷くと、部屋を出て行った。

 その後ろ姿を見つめ、サリーシャはしばらく立ち尽くした。
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