冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
まずは三メートルほど離れた彼に「なにを言っているんですか?」という目を向けた。冗談を言っているようには見えない。というより、非常識で突拍子のないことを言っている自覚もなさそうだ。
次に響子さんと店長へ「私はなにを言われているんでしょう?」と目を移す。ふたり揃って首をかしげている。
脱ぎかけだったエプロンをとりあえず脱いでカウンターに置き、よろけながら一歩、彼に近づく。
「あの……なんで私のこと知ってるんですか?」
いろいろある疑問のうち、始めに浮かんだものを尋ねる。瀬川さん自ら私のところへ来る予想はまったくしていなかった。だって私は名乗らなかったし、本当にただ居合わせただけだもの。
「調べました。いろいろと融通が利くので。詳しくは言えません」
言葉通り言うつもりがないのがわかったためそれ以上探る気も消えていくが、宿泊中、自分の情報をベラベラとホテルのスタッフたちに話していたことを思い出した。優しげでプロ意識の高そうだった彼らのイメージが崩れていった。