貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な！？婚活事情

外出から帰宅したジェシカは、父に呼ばれて急いで執務室を訪れていた。

「お父様、ジェシカです」
「入りなさい」

何があったのか、ジェシカには呼ばれる理由が思い浮かばない。

「どうかしましたか？」
「とりあえず、座ろうか」

促されるまま向かい合わせに腰を下ろしたものの、どことなくかしこまった雰囲気にジェシカはわずかに身構えた。

「これを」

テーブルの上を滑らすように渡されたのは、白い封筒だった。どうやら自分宛のようだと手に取って裏返してみれば、差出人は最近親しくなったフェルナンとある。

「なんでしょうか……」
「開けてみなさい。ここで見るのが嫌なら、自分の部屋でもかまわないよ」
「いえ。ここで大丈夫です」

父からナイフを借りて開封すれば、封筒と同じ白い紙が二枚入っていた。そこにはフェルナンらしい凛々しい字がならんでいる。
父の目を多少気にしながら、丁寧に目を通していく。

「うん、うん……」

思わず書かれている内容に相槌を打ってしまう。

「本当！？」
「何が！？」

ついつい大きな声を出してしまい、父を驚かせてしまったようだ。
とりあえず、最後まで読んでしまおう。


「お父様！　フェルナン様ったら、私を楽しいところに連れていってくださるんですって！！」
「楽しいところ？」
「ええ、そうよ」

いぶかしげな父に読み終わった手紙を渡し、書かれていたことを披露していく。

「フェルナン様と親しくなったでしょ？　だから誘ってくださったんだと思うの」
「そのようだね」

不安そうな父の様子に気づかないまま、ジェシカは興奮を抑えられないで話し続ける。

「一週間後のフェルナン様のお休みの日に、国立自然公園へ行かないかって。そこには釣り堀もあるんでしょ？　それに、フェルナン様がランチを用意してくださるんですって！！　サンドウィッチよ！！」
「サ、サンドウィッチ……」
「ええ。おすすめのハム入りですって！！　はあ……あのフェルナン様だもの。きっと格別に美味しいハムに違いないわ」
「ハム……」

ハムに脳内を占拠された今のジェシカに、声をかけても聞いてなさそうなことを経験上マーカスは知っている。つくづく食べ物に弱い娘が、ハムの衝撃から落ち着くのを待った。


「お父様は、自然公園へ行ったことがありますか？」
「あ、ああ。昔、お母さんと行ったよ。その名の通り自然が豊かで、外でランチを食べるにはもってこいだよ」

一瞬昔の思い出に浸りそうになったマーカスだったが、今はそれどころではないと、軽く首を振った。

「本当！？　うわぁ、楽しそうだわ。この時期なら天気は大丈夫だろうし。あっ、そうだわ。お礼になるように、私もお菓子を作っていこうかしら？　確か、この前買っておいたバターがまだあるはず」
「あ、ああ」

娘は完全に浮かれ切っていた。