貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
ミッドロージアン領の再建
婚約してからも頻繁にデートを重ね、ますます仲を深めていったフェルナンとジェシカ。二人は隠すことなくどこでも堂々と過ごしていたため、目撃情報も多数飛び交い、その仲睦まじい姿は多くの人が知るところとなっていた。

「ジェシカ、今度お父上とオリヴァー君に会うことになったよ」
「え? 何かあるんですか?」

幸せそうにケーキを堪能するジェシカに、フェルナンは唐突に告げた。今日は王都で演奏会を楽しみ、その後カフェに来ていた。

「ああ。前に少し話したが、ミッドロージアンの領地の改革に、私も何か手助けができないかと考えていてね」

マーカスはフェルナンの申し出に、気持ちだけで十分にありがたいと答えていた。そうでなくてもフェルナンは、娘のジェシカにたくさんのドレスや靴、宝石を贈ってくれている。これ以上、迷惑はかけられないと心苦しく思っていた。
けれど、〝妻となる人の生まれ育った地を、私も大切にしたい〟と真摯に話すフェルナンに、それまで渋っていたマーカスも彼の気持ちをありがたく受け入れることにした。もちろん、将来の領主であるオリヴァーも、その話に加わる予定になっている。

「すごくありがたいけど……私、そんなつもりであなたを選んだわけじゃないのよ」

確かに、初めて夜会に出席した頃は、援助をしてくれるような相手をと思ったこともあるが、フェルナンと出会って、そんな考えは消えていた。援助はありがたいけれど、どうしても彼を利用しているようで後ろめたくなるのだ。

「わかっているよ。私はジェシカの生まれ育った故郷を気に入っているんだ。あの土地を、きちんと残したい」

そう言われるのは、すごく嬉しい。

「優しいジェシカのことだから、私に対して利用しているようで申し訳なく思っているのだろう?」
「……うん」
「安心して、ジェシカ。私はお金を渡すだけなんて、乱暴な援助をするつもりはないよ」
「え?」
「まあ、見てて。オリヴァー君も、本腰を入れてなかなかおもしろい提案をしてくれるみたいだから」


そうして数日後、フェルナンがミッドロージアン邸を訪れてきた。本来ならこちらから伺うべきだというマーカスに、現地を見ないでは語れないとフェルナンが押し切っての訪問となった。

「お父様。私も同席したいのですが」

結婚すればこの家を出て、王都にあるフェルナンの家に移り住む予定でいる。寂しい気もするが、自分は〝他所の者〟になるのだ。
それでもここは大好きな故郷だから人任せにはしたくないと思っていたジェシカは、話ぐらい聞いても罰は当たらないはずと、父に願い出ていた。

「姉さん……引いてくださいと言っても、無理なんでしょうね」

父なら許してくれるだろうとわかっていたが、問題はオリヴァーだった。
諦めたようにつぶやくオリヴァーに、ジェシカは思わずニンマリとしてしまう。

「いいですか、姉さん。途中で口を挟まないこと」
「は、はい」

(遊びじゃないってわかっているけれど、なかなか厳しいわ)

「もちろん、こちらから求めた時は、姉さんの意見も話してください」
「いいの?」
「当然です」

(どうしよう。オリヴァーがめちゃくちゃ可愛く見えてきたわ)

表情の緩んだ姉に、オリヴァーは思う。単純すぎると。
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