貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「一つは、蚕の養蚕と絹織物の製品化です。餌となる桑の木は、いくらでもあります。蚕を育てるのはすぐにでも始められるでしょう。しかし、絹糸づくりだけで終わっていては収入もそれほど大きくありません。そこから絹織物を作り、夜着や肌着などの製品を作るのです。なにか……ブランド化できるのが理想です。例えば、他ではあまり扱われないような染め物を取り入れて差別化を図ってもいいかもしれません」

肌着といえば白が基本だ。それを染めるなどという発想は聞いたこともない。

「なるほどな。材料づくりで終わっていては、この地の旨味はわずかだ。ここで製品化までできるのなら……そうだな。試す価値はあるな」
「ただ、ここには織物を作る技術がなく、デザインを起こせる者がおりません」

こんな片田舎の地に、金を稼げる技術を持った人間がくすぶっているはずがない。

「そのあたりなら伝手がある。指導できる人を手配しよう。デザイナーもあたってみるとしよう。専属でここへ来るのは無理でも、依頼に応えられる人物ぐらいなら見つかるだろう」
「ありがとうございます」

ここまで一切マーカスは発言していない。時折頷きながら、息子の説明する姿を見守っているだけだ。その様子は、息子を誇らしく思っているのが伝わってくる。信頼できるからこそ、全てオリヴァーに任せているのだと。

「それから製品化できたとして、その販売は基本的にこの領地に限定します」
「え?」

ジェシカが思わず声を上げると、オリヴァーがジロリと見てくる。
しかし、ジェシカの驚きも当然だ。せっかく良いものを作っても、滅多に外から人が来ないここで売り出すだけでは収益が見込めない。

「王都には、進出しないと?」

フェルナンの問いに、オリヴァーが否定する。

「いいえ。王都では期間限定で、不定期で販売するんです」
「それはなぜだ?」
「宣伝が目的です」
「ほおう」

意外な発言に、フェルナンがなにやら考えを巡らしている。

「あくまで、最終的にはこの土地に店を構えるのが目標です。しかしいくら良いものを提供しても、知ってもらわなければ宝の持ち腐れになってしまいます。ですので、王都では宣伝のために時折販売するのです」
「つまり、外からこの地へ人を連れてきたいと」
「はい」

(なるほど。外からお金を得るってそういうことなのね)
ジェシカは、オリヴァーが最初に言っていた意味をやっと理解した。

けれど王都から近いとはいえ、なにもないこの土地にそれだけの目的で人が来るのだろうかかと、首を傾げた。
(かなり自信がありそうだけど、オリヴァーの提案は大丈夫なのだろうか)

姉に心配をされていることに気づかないまま、オリヴァーの説明は続く。
< 86 / 95 >

この作品をシェア

pagetop