ファム・ファタール〜宿命の女〜

 私の"洗井くんに意識してもらうぞ作戦"を伝えると、亜美ちゃんは「なんでそうなるの?」と心底理解し難いと眉をひそめた。

「たとえばさ、洗井くんの図書当番のときに本を借りてそれきっかけで仲良くなるとかさ……そういう順序みたいなのってあるじゃん?」
「おぉ、なるほどー!さすが亜美ちゃん!!」

 亜美ちゃんの助言に拍手を送ると、「どうも」と短く返された。あ、これは心がこもってないやつだ。でも夏休みまではあと少ししかないのだ。そんなちんたらやってらんない!だって洗井くんを狙うライバルは掃いて捨てるほどいるんだからね!

「でも私のアドバイスを聞く気はないみたいね」

 さっすが亜美ちゃん!友達歴3ヶ月とは思えないぐらい私のことを理解してくれてるー!!
 「えへへ」とわざとらしい愛想笑いを浮かべれば、「はぁ」とあからさまなため息を返された。

「ま、仕方ないか。美琴の座右の銘が"やるしかない!"だもんね」

 亜美ちゃんはあははと口を開けて笑う。これは入学式の日に行った自己紹介で、私が「座右の銘は"やるしかない"です!高校生活もその意気込みで頑張ります」と発言したことを思い出しているのだろう。
 これはいまだに他の子にも思い出したかのように笑われるのだ。いいじゃん、素敵な座右の銘じゃん。ぷう、と頬を膨らませて、怒ってるぞ!、の意思表示をすればいつの間にか涙まで溜めていた亜美ちゃんが「ごめんねぇ」と謝ってきた。

「かわいいから許す」

 私がそう言えば「応援してるね」と微笑んだ亜美ちゃん。ほんとかわいいんだよなぁ……しっかり者で聡明でかわいいかわいい自慢の友達だ。

「とりあえずさ、様子見に放課後は図書室に行ってくるよ!今日図書当番みたいだから!」

 自己紹介で、趣味は読書です、と言った洗井くんは言わずもがな図書委員会に入った。他の委員会と比べても仕事量の多いはずの女子図書委員会決めがうちのクラスで難航したのは、もちろん洗井くんの存在があったからだ。私も立候補したがじゃんけんで負けてしまった。
 今日の昼休みにも図書室に行っていたということは、十中八九今日が図書当番だ。図書当番は週に一度、昼休みと放課後に行う決まりになっているようだった。なので、放課後は図書室に行けば洗井くんに会えるということだ!私、天才。
 今日は7限目まであるのであと2限授業を受ければ図書室の天使、洗井くんを拝める。夕日を浴びながら真剣に本を読む洗井くんは神々しさすら感じるのだ。私は自分が借りた本そっちのけで、ひたすらと洗井くんを見つめることに精を出した日々を思い出す。
 振られることはもちろん怖い。だけどそれだけだ。私はチャンスが来るのをひたすらに耐えて待つのなんてまっぴらごめんだ。
 やるしかないのだ!やるしか!
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