最大級の愛を君に

今思えば生まれてから今まで苦労しない日はなかった。



母に聞いた話だけど俺が産まれた時、息をしてなかったそうだ。


看護師さんたちは急いで違う病室へと俺を連れて行き、母さんは不安でいっぱいだったそう。


それから4時間後くらいに看護師さんに自分で息をすることが出来たと報告されたらしく、その時初めてあなたの泣き声を聞いたのよって母さんは耳にタコが出来るくらい優しくその話を何度もしてた。


そして俺がまだ4歳だった頃。

父さんが失踪した。

これまたなんとも無責任な男で紙きれ一枚だけ残していなくなり、母さんは必死になって土砂降りの雨の中探していた。


帰ってきた母さんは右手にケーキを持って、遅くなってごめんねって笑ってた。


その日は俺の4歳の誕生日だった。


そんな事があったのに、母さんはへこたれず女手一つで俺を育ててくれた。


父さんの悪口ひとつだって言わない。

なんなら俺が父親の話題を出すたびに嫌わないであげてね。っていうセリフがお決まりだった。


嫌うもなにも、昔のことすぎてあまり覚えてないからなんの感情もわかない。


なーんて反抗期じみた事を思ってたらいつの間にか高校生になってた。

やっとちゃんと働ける年齢になったし、母さんに少しは楽になって欲しいと思ってこの間バイトを2つから3つに増やした。

母さんは働くのではなく学業に専念して欲しかったみたいで俺がバイトに行く度にちょっとした喧嘩になるのが日課になった。


「ちゃんと勉強しなさい」

「働くのなんて後からいくらでも出来るでしょ」

「私はあなたに苦労してほしくないの」


母さんはいつもそう言ってた。


…ぶっちゃけ将来や未来なんてどうでもいい。

今生きてさえいればいい。



…それだけで良かったのに。




数週間前に母さんが亡くなった。

土砂降りの雨が降っていた。



母さんはここ3.4年体を壊して入退院を繰り返していた。

今回の入院は今年の8月の半ば頃からで中々退院することが出来なかった母さんと退院したらどこかへ旅行でもしに行こうかって話をしたら「それじゃあ、もう少し頑張らないとね」って笑ってた。



母さんは頑張って、頑張って、頑張った結果、亡くなってしまった。


連絡をもらって病院に着いた頃には母さんはもう息を引き取っていた。

医者が頭を下げている横で、静かな部屋で一人横たわっている母親になんて声をかけていいか分からず、俺は立ち尽くしていることしか出来なかった。

目を閉じるとその光景が焼き付いて中々離れてくれない。


それにその日は………。