あの日溺れた海は、

 
 「そっか〜。部活の方が忙しいならしょうがないよね。頑張ってね!」
 

 放課後の教室でクラスの出し物を準備する星香ちゃんに断りを入れて、今日も部室で書き進めようと鍵を借りに職員室へ行ったときだった。
 
 

「おじいちゃん、部室の鍵貸してください」
 
 
 デスクに座ってパソコンで仕事をしているおじいちゃんに声をかけると、おじいちゃんは引き出しの中から鍵を出して「はいはい。」と前に差し出した。
 
 
「そういえば井上さん、新しい作品は順調?」
 
 
 鍵を受け取って部室に向かおうと体を翻す直前におじいちゃんはそう聞いた。
 
 
「はい、部誌に載せる作品は、何とか。」

いつもよりも順調だったのでへへ、と笑いながらそう答えた。
 珍しく職員室で仕事をしている藤堂先生に視線を送ると、先生は気づいていないのか黙々と資料をホチキスで閉じていた。
 
 
「そうか。さすが井上さんだねえ。それなら今度高校生向けのコンテストがあるから書いてみない?」
 
 
 にこにこと笑みを浮かべるおじいちゃんの言葉にはい!と勢いよく答えようとしたが。
 
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