あの日溺れた海は、
9.入り乱れる恋心
初めて恋をして一か月あまり。

思っていたより恋心って複雑で、ドキドキするだけじゃなくて、先生と生徒だからこれ以上近づいてはいけないという切なさもあるし、好きの中にももっと色々な感情がごちゃごちゃに混ざって一つの束に無理やり束ねられているんだと思った。

 
恋愛ってもっと楽しいものだと思っていたのに、前は朝会えるだけでも胸がいっぱいだったのが、今では他の生徒と話してるだけで胸が締め付けられるし、先生のことを考えると幸せな気持ちと切ない気持ちが混ざった感情になる。
 
 
今の初心者マークのわたしでは、短編すら書き上げることができる気がしなかった。
 
 

先生には寝るように、と言われたにも関わらず文化祭用の作品と並行して進めていると気付かぬうちに睡眠時間が削れていく。
 
 

「おはよ〜はな…って、お前…」
 
 
ある日の朝、朝練終わりの亮がいつも通り挨拶をしたので振り返って「おはよう」と言おうとすると、亮はわたしの顔を見て絶句した。
 
 
「なに?」
 
 
じっと見つめられてるのが恥ずかしくて照れ隠しにぶっきらぼうに答えると、
 
 
「クマ。やばいぞ」
 
 
わたしの目元を指差してそう深刻そうに言った。「女子にそんなこと言わないで」と笑いながら亮の手を叩くと、ふらりと身体がよろけた。
 
実際、相当限界まできている気はする。

同時進行なんて今までしたことがないし、でも本当に良い作品を作りたいから妥協したくない。…先生にも褒めてもらいたいし。
 
 
「遅くまで部屋の明かりついてるもんな」」
 
 
そう至って真面目そうな顔で言う亮にわたしは「ストーカー?」とふざけ半分でそう言った。
 

「でもこれは真面目に、小説とかなんかで忙しいのはわかるけど、無理すんなよ。」
 
 
わたしの目をまっすぐ見てそう言う亮に戸惑いながらも「はいはい」と軽くあしらった。
 
 
 
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